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研究2-1 聾学校における英単語のふりがなの振り方と発音習得に関する教員の意識調査

  • 佐藤楽夏(東京都立立川学園)
  • 吉田有里(東京都立立川学園)
  • 濵田豊彦(東京学芸大学)

1.はじめに

グローバル化が急速に進展する中で、外国語によるコミュニケーション能力は様々な場面で生涯にわたって必要となることが想定される。平成20年度改訂の学習指導要領では、小・中・高で一貫した外国語教育を実施することにより、外国語を通じて文化に対する理解を深め、積極的に外国語を用いてコミュニケーションを図ろうとする態度や、情報や考えなどを的確に理解したり適切に伝えたりする力を身に付けさせることが目標に掲げられた。それを受けて平成23年から小学5・6年生を対象に「外国語活動」が明記され、平成29年告示学習指導要領の下令和2年度より対象が小学3・4年生に移り正式に必修化された。併せて小学5・6年生からは教科「外国語」が開始された。

これら英語教育の早期化は聴覚特別支援学校においても同様に導入されているが、音声コミュニケーションに制限のある児童への指導は通常の小学校以上に多くの戸惑いが生じている(松藤ら,2011,山澤ら,2016)。

英単語の読みを習得するためには、英語の「音韻意識」という、オンセット(CVCのCの部分。Cが子音、Vが母音を表す)やライム(CVCのVCの部分)などの音韻を操作する能力のうち、少なくともこれらのレベルで「分解」や「削除」のような音韻操作ができることが必要条件であると考えられている(高橋ら,1998)。しかし日本語の音節(モーラ)はCV構造が基本となっており、一方の英語の音節はCVC構造が基本である。このことから、CCVCといった音節を反復する課題では日本語児は、子音の部分にそれぞれ母音を挿入し、CCVCの英単語を、CV、CV、CVのように発音することが多い。例えば、[grass]はCCVC構造の1音節英単語であるが、日本人はモーラを単位として処理するため、/gu//ra://su/の3つのまとまりとして知覚している(李・湯澤・関口,2009)。津田・高橋(2014)は、英単語の習得には音素レベルの音韻意識が関わっており、日本語化して捉えることは語彙の獲得に妨害的に働くとしているが、一方で聴覚特別支援学校のほとんどで、英単語の読み方にふりがなが用いられており(高尾,2020)、効果的な指導方法の確立に課題が残されているといえる。

2.目的

英語本来の音韻構造と異なることを理解しながらも、多くの聴覚特別支援学校で英単語にふりがなが使われている。本研究では、授業における英単語のふりがな表記の実態や表記の仕方を把握し分析するとともに、読み方や発音習得に向けた教員の意識の傾向等を考察することを目的とした。

3.方法

全国の聴覚特別支援学校の小学部5.6年もしくは中学部の外国語(英語)担当教員を対象にアンケート調査を実施した。

英単語(have to/the umbrella/Good morning/sit down/potato/apple)に対していずれのふりがなを用いるかを選択させた。すべての質問で、英語読み学習の初期段階である小学部もしくは中学部1年の児童生徒への指導を想定した回答を求めた。併せて、英語らしい発音や正しい綴りをどの程度重視しているかを調査することで、読み方や発音の習得に向けた教員の意識とふりがなの傾向に関して考察を行った。

尚、本研究の実施に際しては各学校の校長に許可をとるとともに回答者にも研究の目的等に関して紙面で説明を行い同意を得た者だけを対象とした。また本研究において開示すべき利益相反は無い。

4.結果

97名の教員から有効回答を得た。そのうち96人(99%)が英単語の読み方をカタカナで表記して教えていた。この96人にふりがなの振り方を調査した。

まず、単語が組み合わさったときに音が変わる単語(have to/the umbrella)で、1つ1つの単語の読みをそのまま表記した読み方(ハブトゥ/ザアンブレラ)と、単語が組み合わさり音が変わった読み方(ハフトゥ/ジアンブレラ)のどちらを用いるか回答を求めた。その結果「have to」は、「ハブトゥ」が13%、「ハフトゥ」が79%、「その他(自由記述)」が8%、「the umbrella」は、「ザアンブレラ」が6%、「ジアンブレラ」が75%、「その他」が19%となった(図1)。次に、慣習的に使われる単語の組み合わせ(Good morning/sit down)で、1つ1つの単語の読みをそのまま振った読み方(グッドモーニング/シットダウン)と、語が連続することで/d/や/t/の音が脱落した実際の発音に近い読み方(グッモーニン/シッダウン)のどちらを用いるか調査した。結果どちらも1つ1つの単語の読みを表記した読み方が多く選択され、「Good morning」は、「グッドモーニング」が54%、「グッモーニン」が28%、「その他」が18%、「sit down」は、「シットダウン」が46%、「シッダウン」が27%、「その他」が27%となった(図2)。最後に、日本語でもカタカナ表記されることの多い語(potato/apple)で、カタカナ語の読み方と実際の発音に近づけた読み方のどちらを用いるかを調査した。結果「potato」は、実際の発音に近づけた「ポテイトウ」が多く選択され63%、「ポテト」が20%、「その他」が17%となった。一方「apple」は、カタカナ語である「アップル」が多く選択され44%、「アッポー」が31%、「その他」は25%となった(図3)。

図1「have to」と「the umbrella」のふりがなの振り方

図2「Good morning」と「sit down」のふりがなの振り方

図3「potato」と「apple」のふりがなの振り方

次に教員が聴覚障害児の発音(音声)の習得をどの程度重要視しているかを4段階評価で回答を求め調査した。「ネイティブのような発音習得」については、1(ほとんど当てはまらない)と2(あまり当てはまらない)に68%の回答があり、ネイティブのような発音習得はあまり目標とされていなかった。一方で、「カタカナ英語のような発音習得」については、3(まあまあ当てはまる)と4(最も当てはまる)に77%の回答があり、発音習得自体が目標とされていないのではなく、カタカナ英語のような発音であっても習得させたいと考えられていた。ネイティブのような発音習得は目標としていないが、カタカナ英語のような発音習得には肯定的に考えている意見が最も多いことが示された。

発音以外の手段に関して、「発音よりも日本語の指文字で読み方を表現する」ことについては、1(ほとんど当てはまらない)と2(あまり当てはまらない)に75%の回答があり、一方で「発音よりもスペルを書けるようにさせる」ことについては、3(まあまあ当てはまる)と4(最も当てはまる)に77%の回答があった。指文字での表出にはこだわらず、スペルをしっかり書き、覚えられるようになることを重視していることが示された。

英単語をふりがな表記することで、モーラを単位とした認識が英語本来の音素レベルでの音韻処理を妨げる(津田・高橋,2014)とされている。また滝口(2017)も、カタカナで英語の音をすべて表記することは非常に難しく、カタカナは日本語であるためそのまま読みと発音が日本語の発音になってしまうことを危惧している。このことから、日本語であるカタカナに変換することには音韻獲得が阻害されるといった課題があることが指摘されてきた。そこで実際に聴覚障害児に英語を指導する教員に、カタカナで英単語の読み方を表記することが、聴覚障害児の英語の習得にどのような影響があると思うかを、4段階評価で回答を求めた(図4)。

図4 「カタカナ表記による英語習得への影響度」に対する理由(自由記述)

その結果、3(まあまあ良い影響がある)と4(とても良い影響がある)に、96人中80人が回答し、83%がカタカナ表記に関して肯定的な意見をもっていることがわかった。その理由について、「視覚化することで、情報保障や読みの手がかり・理解に繋げる」「単語やスペルの習得に役立つ」「英語の興味や意欲に繋がる」の回答が多く見られた。

5.考察

1)教員経験による差異の検討

聴覚特別支援学校での外国語活動及び外国語(英語)の教員経験年数(1~2年、3~5年、6年以上)で分類した。そして、単語が組み合わさったときに音が変わった単語(have to/the umbrella)でのふりがなの振り方を年数ごとクロス集計した(「その他」の自由記述で得られた回答の中で、選択肢のどちらかに類すると判断できるものはそこに含めて集計した)。その結果、1つ1つの単語の読みを表記した「ハブトゥ」「ザ アンブレラ」を両方とも選択したのは、経験年数1~2年の教員のみであり、反対に、音が変わった読みを表記した「ハフトゥ」「ジ アンブレラ」を両方とも選択したのが最も多かったのは、6年以上の教員であった(43%)。このことから、聴覚特別支援学校の外国語の指導経験が長い教員ほど、単語単独の読み方ではなく、音が変わった後の読み方をより重視していることがわかった(図5)。

図5 聴覚当別支援学校外国語経験年数別
単語選択の結果(have to/the umbrella)

また、カタカナ語(potato/apple)でもクロス集計を行った結果、日本のカタカナ語の読みを表記した「ポテト」「アップル」を両方選択した割合が最も高かったのは、1~2年の教員であった。一方、実際の発音に近い読みの表記「ポテイトウ」「アッポー」を両方選択した割合は、6年以上の教員が最も高かった。しかし、「apple」に関しては、「アップル」「アッポー」以外の解答、例えば「アプル」「あープる」が多く見られ、また「どちらも教える」「実態に合わせて変える」といった回答も見られた。「apple」の「l」は音節主音的子音(母音の代わりに、「聞こえ度」が相対的に高い子音を主音にして音節を構成する)と言われるものでそのことが回答を多様にした可能性があると考える。いずれにせよ、このような「その他」の回答は、経験6年以上の教員から多く回答があった。このことから、カタカナ語の読みの表記に関しては、教員経験を重ねるごとに、より話し言葉や実際の発音に近い表記を用いたり、辞書の書き方を踏襲するなど、読みの書き方に工夫をしたりする傾向があることが示唆された。

渋谷(2012)の調査により、カタカナ語ではなく、実際の英語の発音が、英語学習初期の児童にとって英単語の意味の理解にスムーズにつながらない可能性も指摘されている。聴覚障害のある児童生徒にとっては特に、実際の発音、つまり話し言葉での表記は聴児よりもなじみがないことが想定されるため、(すでに習得している日本語の音韻である)カタカナ英語ではない実際の発音から英単語の意味を理解することは、聴児より難しくなることが考えられる。しかし、カタカナ英語の読みは実際の発音とは異なったり、実際のコミュニケーションにおいては通じなかったりするものがある。今回の調査では、実際の発音の表記(話し言葉)とカタカナ語の表記(書き言葉)を児童の実態に応じて使い分けたり、両方表記したりする、といった意見も多く得られ、目的や発達に応じて対応させる必要があることが示唆された。

2)聴覚障害児にとって英単語を音声化する意味

 ふりがなを用いることに関しては、「カタカナ読みをすることは、音の連結や脱落、同化などで音が変化する所を、はっきり読んでしまい英語らしい音にならない(馬場,2021)」という意見もある。しかし本調査では79%の教員が、カタカナ英語のような発音であっても、発音(音声)はできるだけ習得させたいと考えていることや、77%の教員がそもそも発音ではなく、それよりもスペルを書けるようになることを重視していることからも、聴覚障害児教育における目的や習得させたい内容を考慮した上では、カタカナを用いた表記やカタカナ英語のような表記にも十分な肯定的な効果が見られることが考えられる。

聴者を対象とした知見ではあるが、門田(2012)はただ模写を繰り返すだけでは単語の記憶には効果が薄く、脳内で変換した音を実際に声に出すことで、音声情報に変えるスピードを速くでき、円滑になった分だけ、認知資源を、短期記憶から長期記憶への転送に費やせるようになるため、単語をより長く記憶に残すことができるとしている。本調査でも、聴覚障害児が英単語を書けるようにするための指導上の工夫として、単語の発音も同時にさせたり日本語の読みをカタカナで書かせたりしていることが挙げられた。模写だけでなくしっかりと発音することが単語習得に役立っていることを鑑みても、カタカナ英語であっても読み方(発音)を伝えることや、それをスペルとして書けるようにすることに繋げるための工夫は求められていると感じる。ただ、学年や児童の実態によっては、英語のスペルを書かせるのにその音韻を意識させるまでの発達段階ではない場合も少なくなく、それぞれ効果的な学習方法が異なる。そのため、それぞれの実態を踏まえた上で授業方法や重要視する内容の判断を行い、適する学習方法を提示することがより大切であると考えられる。またふりがなを振ることは学習者の心理的な抵抗感を少なくする上で効果があり(原田,1997)、理解促進だけでなく学習意欲を高める上でも効果が期待できることが考えられる。

ただ今回は教員への意識調査のみであり、その指導を受けた児童生徒の実態や英語の音韻の獲得状況を確認してはいないため、実際にどのような影響が生じているのかは明らかにできなかった。今後の課題として、聴覚障害のある児童生徒にとって英語の理解や習得のために、どういった効果的な授業や表記が有効であるのかをさらに深め考察していくことが重要である。

参考文献

  • 馬場千秋(2021) 英語を不得意とする学生のリスニング力と発音の関係-「外国語活動」経験のある学習者の状況から-,帝京科学大学教職研究第6巻第2号,1-12
  • 原田良三(1997) カタカナをめぐる問題-英語のカタカナ表記と発音、綴りなど-,中国地区英語教育学会研究紀要,27,209-219
  • 門田修平(2012)シャドーイング・音読と英語習得の科学.コスモピア
  • 松藤みどり・須藤正彦・大杉豊(2011)聴覚特別支援学校における「小学校外国語活動」のための英語教材開発.平成22年度障害者高等教育研究支援センター長裁量経費報告書
  • 李思嫻・湯澤正通・関口道彦(2009) 日本語母語幼児と中国語母語幼児における英語音韻処理の違い,発達心理学研究,20(3),289₋298
  • 渋谷玉輝(2012) 小学校4年生のカタカナ英語の意味の理解-英語母語話者の発音する英単語の理解-,小学校英語教育学会12,44-56
  • 高橋登・大岩みどり・西元直美・保坂裕子(1998) 音韻意識の読み能力-英語圏の研究から-,大阪教育大学紀要,第Ⅳ部門,47(1) , 53-80
  • 高尾千優(2020) ろう学校(聴覚特別支援学校)小学部高学年における外国語科の実態調査-担当教員に対するアンケート調査を通して-,東京学芸大学特別支援教育特別専攻科修了論文
  • 滝口晴生(2017) マザーグースの童謡を利用した発音指導-カタカナ発音から脱するために-,教育実践学研究22,35-42
  • 津田知春・高橋登(2014) 日本語母語話者における英語の音韻意識が英語学習に与える影響,発達心理学研究,25(1),95₋106
  • 山澤萌,小田侯朗(2016)特別支援学校(聴覚障害)小学部における外国語活動に関する調査研究.障害者教育・福祉学研究,12,57-67

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