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研究1-2 聴覚特別支援学校英語科担当教員を対象とした調査

-学習指導要領改訂の受け止めと取り組み-

  • 吉田有里(都立立川学園・東京学芸大学教育学研究科)
  • 濱田豊彦(東京学芸大学)

1.はじめに

2020 年度より小学校で英語が教科として本格実施され、聴覚特別支援学校でも教科としての学習がスタートしている。これまで外国語活動だったものに対して、教科「外国語」として英語に触れる機会が増加することは子どもの変容をもたらしていると想像できるが、一方で指導すべき内容が従来よりも増加していることや聴覚障害児にとっては一層困難な「聞く」「話す」力への取り組みも求められている。

例えば、指導する語数は大幅に増加している。旧学習指導要領では中学校で1200語程度、高等学校で1800語程度、高校卒業レベルでは3000語程度だったが、新学習指導要領では小学校で600〜700語程度、中学校で1600〜1800語程度、高等学校で1800〜2500語程度に増加し、高校卒業レベルでは4000〜5000語程度に増加した。文部科学省が実施した全国学力・学習状況調査中学校英語の平均正答率は、年度によって出題内容も異なることから、単純比較はできないものの、56.5%(平成31年度)から46.1%(令和4年度)に低下しており、新しい教科書は難しくなり、語彙については多すぎると、学習指導要領が改悪された江利川(2023)と論じる意見もある。

2.目的

学習指導要領が改定されたことを受けて、と聴覚特別支援学校で英語を担当する教員が、子どもたちの変容や指導課程の変更をどのように受け止めているのかを明らかにすることとした。

3.方法

4.結果

1)生徒の変容の受け止め

(1)令和4年度中学部1年生の英語力をどのようにうけとめているか

令和4年度中学部1年生は、学習指導要領改定後に伴い小学校で2年間教科として英語を学んできた最初の中学生である。入学時の4技能5領域の英語力を2、3年生の同時期と比較し「とても高い」「高い」「変わらない」「低い」の4択式で回答を求めた。この問いに対し、中学部を担当している42名中、聞くことの領域で33名、それ以外の領域で34名から回答を得た(図1)。4技能のうち「話すこと」は、「とても高い」「少し高い」で約4割を占め、他の3技能より肯定的な評価をする者が多かった。

図1 令和4年度中学部1年生と2、3年生の入学時英語力
(n=34 「聞くこと」のみn=33)

(2)英語を楽しんでいる生徒の割合

英語自体を楽しんでいる生徒の割合について「増えた」「変わらない」「減った」の3択式で回答を求めた。中学部を担当している42名中、36名から回答を得た。8名(22.22%)の教員が「増えた」と回答し、26名(72.22%)の教員が「変わらない」、2名(5.56%)の教員が「減った」と回答した(図2)。

図2 英語を楽しんでいる生徒の割合(n=36)

教員がそのように感じたエピソードについて、前の質問に回答した36名中16名から回答を得た。「増えた」と回答した教員の自由記述からは、「積極的」「すぐに質問」「主体的」など、生徒が自ら学び考える行動をしている様子が見られた。「変わらない」と回答した教員の自由記述からは、生徒数が少ないことや個人差が大きいことが書かれていた。「減った」と回答した教員の自由記述からは、知識が断片的に入っているだけで英語を楽しんではいないことや、語彙数の増加から小学校と中学校の英語の違いについての記載があった。

(3)「関心・意欲・態度」や「主体的に学習に取り組む態度」が学習に与える影響

新学習指導要領実施下で「関心・意欲・態度」や「主体的に学習に取り組む態度」が学習に良い影響を与えているかについて「はい」「いいえ」「わからない」の3択式で回答を求めた。この問いに対し、中学部を担当している42名中41名から回答を得た。11名(26.83%)の教員が「はい」と回答し、4名(9.76%)が「いいえ」、26名(63.41%)の教員が「わからない」と回答した(図3)。

図3 「関心・意欲・態度」や「主体的に学習に取り組む態度」が学習に与える影響(n=41)
図4 中学部英語科として小学部英語で特に力を入れてほしいこと

(5)聴覚特別支援学校中学部の生徒にとって大切な項目

聴覚特別支援学校中学部の生徒にとって大切だと思う順に並べるよう求めたところ、42名全員から回答を得た。選択肢は、「語彙」「文法・表現」「読解」「国際交流・異文化理解」「音声・発音」「アメリカ手話の単語」とした。「語彙」を1位にした教員が65.90%と最多であった(図5)。

図5 聴覚特別支援学校中学部の生徒にとって大切な項目n=42)

2)(音声)英語の使用に関して

(1)授業内での英語の使用頻度 

学習指導要領では、授業を「英語を使った実際のコミュニケーションの場面」とするため、中学校・高等学校とも「授業は英語で行うことを基本とする」としている。小学部・中学部・高等部のいずれかで英語を担当している教員に、教員の英語の使用状況を「発話をおおむね英語で行っている (75%程度以上〜)」「発話の半分以上を英語で行っている (50%程度以上〜75%程度未満)」「発話の半分未満を英語で行っている (〜50%程度未満)」の3択式で回答を求めた。この問いに対し、98名から回答を得た(図6)。発話の50%以上を英語で行なっていることとした教員は12%強しかいないことが明らかになった。

図6 英語担当教員の英語使用状況(n=98)

(2)発話の補助手段 

教員が英語で発話する際に補助的に用いる手段「アメリカ手話単語」「英単語のルビを日本語の指文字で示す」「英文・英単語の指差し」「日本の手話単語」「英語の口形」の5つについて「よく使う」「時々使う」「あまり使わない」「全く使わない」の4択式で回答を求めた (図7)。

図7 英語で発話する時の教員の情報保障の方法

(3)英語での言語活動

言語活動とは、「実際に英語を使用して互いの考えや気持ちを伝え合う」活動のことである。外国語科の新学習指導要領では小学校、中学校、高等学校全て学校段階で「言語活動を通して」コミュニケーションを図る資質・能力を育成することとなっている。

小学部・中学部・高等部のいずれかで英語を担当している教員に、新学習指導要領実施下の言語活動の時間について「増えた」「変わらない」「減った」の3択式で回答を求めた。この問いに対し、96名から回答を得た(図8)。35名(36.46%)が「増えた」、57名(59.38%)が「変わらない」、4名(4.17%)が「減った」と回答した。

図8 英語での言語活動時間(n=96)

言語活動時間の増減の理由について96名中78名から回答を得た。記述に含まれたキーワードごとにカテゴリーに分け、それを含む回答をした人数を「回答数」として複数ある意見のみまとめた(表1)。なお、1名の記述が、複数のカテゴリーにカウントされている場合もある。

表1 言語活動時間の増減の理由

言語活動の時間回答内容回答数(名)
増加教科書の活動13
学習指導要領、意識的に増加させた10
ペアワーク、グループワーク6
評価2
変化なし生徒数が少ない11
以前から実施している9
英語を教える経験が短く比較できない8
児童生徒の実態による7
以前から実施している3
他の活動に時間がかかり、言語活動を行う時間がない2
減少他の活動に時間がかかり、言語活動を行う時間がない2
生徒数が少ない2
コミュニケーション手段が異なる1

(4)児童・生徒と教員・ALTの英語での「話すこと[やり取り]」の主な方法

小学部・中学部・高等部のいずれかで英語を担当している教員に、児童・生徒と教員・ALTの英語での「話すこと[やり取り]」の主な方法について「音声英語(意味を日本の手話で表すことを含む)のみ」「音声英語と筆談(タイピング、文字起こしアプリの使用を含む)の併用」「音声英語(発音を日本の手話の指文字で表すことを含む)のみ」「音声英語とアメリカ手話単語や指文字の併用」「筆談(チャット、タイピング、文字起こしアプリの使用を含む)のみ」「ASL(綴りをアメリカ手話の指文字で表すことを含む)のみ」の6項目をよく使う順に回答を求めた。この問いに対し、94名から回答を得た(表2)。

一番頻度が高い方法は、28.40%が「音声英語(意味を日本の手話で表すことを含む)のみ」、25.30%が「音声英語と筆談(タイピング、文字起こしアプリの使用を含む)の併用」、21.10%が「音声英語(発音を日本の手話の指文字で表すことを含む)のみ」であった。

表2 生徒と教員・ALTの英語での「話すこと[やり取り]」の主な方法(n=94)

コミュニケーション方法割合
音声英語(意味を日本の手話で表すことを含む)のみ28.40%
音声英語と筆談(タイピング、文字起こしアプリの使用を含む)の併用25.30%
音声英語(発音を日本の手話の指文字で表すことを含む)のみ21.10%

(5)児童・生徒同士の英語での「話すこと[やり取り]」の主な方法

小学部・中学部・高等部のいずれかで英語を担当している教員に、児童・生徒同士の英語での「話すこと[やり取り]」の主な方法について「音声英語(意味を日本の手話で表すことを含む)のみ」「音声英語と筆談(タイピング、文字起こしアプリの使用を含む)の併用」「音声英語(発音を日本の手話の指文字で表すことを含む)のみ」「音声英語とアメリカ手話単語や指文字の併用」「筆談(チャット、タイピング、文字起こしアプリの使用を含む)のみ」「ASL(綴りをアメリカ手話の指文字で表すことを含む)のみ」の6項目をよく使う順に回答を求めた。この問いに対し、88名から回答を得た(表3)。

一番頻度が高い方法は、38.60%が「音声英語(発音を日本の手話の指文字で表すことを含む)のみ」、34.10%が「音声英語(意味を日本の手話で表すことを含む)のみ」、10.20%が「筆談(チャット、タイピング、文字起こしアプリの使用を含む)のみ」であった。

表3 児童・生徒同士の英語での「話すこと[やり取り]」の主な方法(n=88)

コミュニケーション方法割合
音声英語(発音を日本の手話の指文字で表すことを含む)のみ38.60%
音声英語(意味を日本の手話で表すことを含む)のみ34.10%
筆談(チャット、タイピング、文字起こしアプリの使用を含む)のみ10.20%

(6)児童・生徒の「話すこと[やり取り]」する力

小学部・中学部・高等部のいずれかで英語を担当している教員に、新学習指導要領になり児童・生徒の「話すこと[やり取り]」する力が伸長しているか「そう思う」「ややそう思う」「あまりそう思わない」「全くそう思わない」の4択式で回答を求めた。96名から回答を得た(図9)。

図9 児童・生徒の「話すこと[やり取り]」する力(n=96)

(7)「話すこと[やり取り]」に関する児童・生徒の困難さ

小学部・中学部・高等部のいずれかで英語を担当している教員に、「話すこと[やり取り]」に関して、生徒のもつ困難さについて複数回答式で回答を求めたところ、97名から回答を得た(図10)

図10 「話すこと[やり取り]」に関する児童・生徒の困難さ

「話すこと[やり取り]」するための工夫について、前の質問に回答した97名中79名から回答を得た。生徒数が少ないことに対しては、他学年や教員とやり取りするという工夫があった。語彙力や文法力不足に対しては、反復学習や選択式にするという工夫があった。発話の明瞭度に対しては、補助的に指文字を使うという工夫があった。

5.考察

令和4年度中学部1年生が小学部5年生の時は新型コロナウイルスの影響もあり、臨時休業やマスクで口形の見えないままの学習など大きな影響があったと思われるが、40%以上の教員が、新学習指導要領下で英語を教科として2年間学んできた1年生の「話すこと[やり取り]」の力は、そうでない学年の入学時よりも「高い」と評価している。これは聞こえる児童を対象としたベネッセ教育総合研究所の調査とも一致しており、教科書を使った小学部での学習に一定の効果があることが示唆される。「書くこと」は「変わらない」と「低い」を合わせた割合が1番高くなっている。外国語活動では補助的な領域であった「書くこと」は、教科化以前から聴覚特別支援学校では積極的に実施されており(山澤・小田,2016)、教科化以降もその技能が変わらないと中学部教員が感じたことが示唆される。

中学部で英語を教える教員は小学部ではヘボン式ローマ字、中学部では語彙の学習が1番重要だと考えていることが明らかになった。音声や語、文法事項は学習指導要領で言語材料とされており、4技能5領域の基礎となる。自由記述では語彙が学習意欲や苦手意識に関係するという意見が複数あり、語彙が中学部以降の英語学習の基礎となるため語彙が最重要であると考えているようだ。教員は語彙学習に対してその重要性を認識しているのにも関わらず、指導の工夫は単語テストを行うというものが最も多く(金・四日市,2012、谷本ら,2017)、具体的な学習方法は生徒に委ねられていることが示唆された。

参考文献

  • ベネッセ教育総合研究所(2023)小学校英語に関する調査研究. https://berd.benesse.jp/up_images/research/research_230830.pdf (2024年1月16日閲覧)
  • 江利川春雄(2023)英語と日本人 ――挫折と希望の二〇〇年. 筑摩書房.
  • 金恩河・四日市章(2012)特別支援学校(聴覚障害)の英語指導における困難点と指導上の工夫.障害科学研究,36,121-134.
  • 高尾千優(2021)ろう学校(聴覚特別支援学校)小学部高学年における外国語科の実態調査. 東京学芸大学 特別支援教育専攻科 修了論文.
  • 山澤萌・小田侯朗(2016)特別支援学校(聴覚障害)小学部における外国語活動に関する調査研究.障害者教育・福祉学研究 第12巻,57-67.
  • 文部科学省(2017)小学校学習指導要領解説 外国語活動・外国語編.
  • 文部科学省(2017)中学校学習指導要領解説 外国語編.
  • 文部科学省(2018)高等学校学習指導要領解説 外国語編 英語編.
  • 全国聾学校長会(2011)聾学校における専門性を高めるための教員研修用テキスト改訂版.

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