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研究1-4 聴覚障害者の英語語彙記憶方略の傾向および英語学習において求める支援

-聴覚障害成人からの聞き取りを通して-

  • 小林汰門(東京学芸大学教育学研究科)
  • 濵田豊彦(東京学芸大学)

1. はじめに

近年、社会や経済の急速なグローバル化が進んでいることを受け、日本の教育界においてもさまざまな改革が進められている。英語教育についてもまさにその変革の一部であり、国際共通語としての英語の修得は、制度的・文化的・多様性を平準化して、単一の尺度で物事を進めようとするグローバル化への対応である(日本学術会議, 2012)。近年の英語教育では、「コミュニケーション能力の育成」という目標のもと、小学校・中学校・高等学校の各段階における見直しや改善に向けた取り組みが進められてきた(文部科学省, 2017・2018)。特別支援学校においても、通常学校の改訂に準ずる形で、小学部の外国語活動の導入や中学部・高等部の英語授業時数の増加などといった英語教育の変革の波を受けている。しかし、これらの変革にあたり、聴覚障害をはじめとした障害者の英語教育に関しては十分な検討がなされてこなかった(寺田・岩田, 2017)。現在求められている英語教育は、従来の読み・書きではなく、話す・聞くを中心としたコミュニケーション活動に重点を置いている。聴覚に障害を有する児童生徒にとって、英語を通したコミュニケーション活動への参加が難しいことは想像に難くない。加えて、聴覚障害を有する児童生徒の実態は多岐にわたるゆえ、音声字幕システムやノートテイク、手話通訳などの支援だけでなく、彼らの英語力、日本語力、英語学習に対するモチベーションも様々である(太田, 2020)。聴覚障害者のこれまでの英語授業経験を整理し、英語授業においてどのような支援が有効であるかを検討していく必要がある。また、先述した学習指導要領の改訂により、現在の英語教育においては読む・聞く・書く・話すといった4技能の英語力の育成を重視するようになった。英語語彙力は、これらの4技能のすべてに影響を及ぼしていることから(Meara, 1996)、英語語彙指導はとても重要となってくることが考えられる。第二言語として英語を学習する日本人学習者にとって、英語語彙が果たす役割は大きいが、聴覚に障害を有する学生が英語を学ぶ上ではさらにその役割が大きくなると予想できる。たしかに、記憶方略に関しては、聴覚障害児にとって手の運動が記憶を促進するといった研究(長南, 2004)やコミュニケーションモードで記憶方略の違いが生じるといった研究(石田, 2022)も存在する。しかし、英語語彙学習については学習者まかせであるという報告もあり(Oxford & Scarcella, 1994)、とりわけ聴覚障害児の英語語彙学習に着目した研究は数が少ない。

2. 目的

 本研究では、聴覚障害成人を対象に、中学校・高等学校時の英語語彙記憶方略についての傾向とその特徴および英語授業においてどのような配慮を求めているのかを明らかにすることを目的とした。

3. 方法

3. 1. 対象

対象は、大学に在籍している(4年次)もしくは卒業した聴覚障害成人計20名(平均聴力:100.2dB、SD:9.7)であった。

3. 2. インタビューの概要

3. 2. 1. 手続き

インタビューは対象者の最も用いやすいコミュニケーション手段を用いた。これまでの対象の英語語彙記憶方略および英語授業の経験を詳細に尋ねるため、半構造化面接法を用いて行った。インタビュー中、筆者は必要に応じて質問に関する具体的な情報を補ったり、対象の回答に対して説明や経験を問い返す質問を加えたりした。また、対象が中学校および高等学校に経験した英語授業等を想起しやすいよう、質問項目については事前に送付した。インタビューの記録は、研究対象者の了承を得た上で録画し、動画ファイルとして保存した。そのデータを用い、対象者の氏名を匿名化したうえで全記録を逐語化した。インタビューの所要時間はそれぞれ約40分であり、新型コロナウイルス感染防止と研究対象者の負担の軽減の観点からオンラインで行った。

3. 2. 2. 質問項目

質問内容は、中学校および高等学校時の(1)英語語彙習得について、(2)英語授業についての以上2点を主に調査した。なお、対象のプロフィールについては事前にアンケートで収集した。質問項目および収集したプロフィールについては表1に記載する。

表1 プロフィール及びインタビュー項目

プロフィールあなたの平均聴力を教えてください(右・左)。
あなたにとって、一番楽で確実なコミュニケーション手段を教えてください。
手話ができない聴者とのコミュニケーションについて、どのような方法を用いますか?
あなたが通っていた学校種について教えてください。
あなたは英語がどれくらい好きだと思いますか?(10段階評価)
あなたは英語がどれくらい得意だと思いますか?(10段階評価)
あなたの英語学習のモチベーションはなんですか?
英語語彙中学校・高等学校時の英単語の勉強方法を教えてください。
接頭辞・接尾辞について知っていますか?
フォニックスについて知っていますか?
英語授業あなたはこれまで接頭辞・接尾辞に関する指導を受けた経験がありますか?
あなたはこれまでフォニックスに関する指導を受けた経験がありますか?
学校の英語の授業の中で求める改善点や教師に持ち合わせてほしい知識はありますか?
これまで英語を勉強するうえで一番苦労したことを教えてください。

3. 2. 3. インタビューの分析

3. 2. 3. 1. 英語語彙記憶方略について

本研究では眞田(2014)を参考に、中学校・高等学校時の英単語の勉強方法についての回答をカテゴライズして分析を進めた。カテゴリーは「文脈・参照重視」、「分析・統合化」、「イメージ化」、「反復重視」、「感覚活用」の5つとなり、先行研究の結果と比較することで、聴覚障害成人の英語語彙習得の傾向とその特徴について検討した。

3. 2. 3. 2. 英語授業について

本研究では佐藤(2008)の質的データ分析法と楠見(2017)の分析を援用して、以下の方法で聴覚障害者の英語授業における現状についてのカテゴリーを生成した。下記に本研究における分析の手順を示す。

(1)「学校の英語授業の中で求める改善点や教師に持ち合わせてほしい知識について、質的分析を行う。聴覚障害者が英語授業の中で求める点というテーマを設定し、各対象の回答部分をセグメントとして抜き出した。

(2)オープン・コーディングによって各セグメントで語られた英語授業で求める点について抽象的概念で置き換えた(“英語をもっと使った活動をしたい”という回答に“英語の使用”というオープン・コードを付けた)。なお、二つ以上の概念を含むセグメントは複数の概念で置き換えた。その後、複数のコードを焦点的コーディングによって集約した(“英語を使う”“英語を通した”“英語によるコミュニケーション”などを「英語を使う」という焦点的コードにまとめた)。

(3)焦点コードの「類似性」に着目した上でカテゴリー化を行い、大カテゴリーを生成した。

(4)これらのカテゴリーの階層構造、定義、回答を1つの表にまとめた(Table2)。分析結果の本文中における表記については楠見(2017)を参考にし、大カテゴリーを《 》、焦点的コードを「 」で示した。回答は“ ”を用いて引用し、Table2に記された回答を参照する際には、引用する部分を(a-1)などの記号で記すこととした。

なお、分析については筆者と聴覚障害児教育と英語教育に携わり、本研究の趣旨に同意した1名の計2名で行った。

3. 3. 倫理的配慮

 本研究の実施にあたり、研究倫理に基づいた配慮を行った。具体的には、研究の趣旨及びデータの保存方法・個人情報の保護をあらかじめ書面で説明し、同意を得た者のみに調査を実施した。調査への参加はいつでも撤回でき、その場合にも不利益が生じないことについても説明したうえで調査を実施した。また本研究は、東京学芸大学の研究倫理委員会の承認を得た。

4. 結果

4. 1. 英語に対するアプローチ・英語語彙記憶方略について

対象自身が英語を好きかどうか、得意と感じるかどうかを10段階で評価させた。結果は「好きかどうか」の平均が5.85(SD:2.21)、「得意と感じるかどうか」の平均が4.37(SD:2.12)となった。さらに、中学校・高等学校時の英語学習に対するモチベーションについてインタビューし、結果をまとめた。英語学習のモチベーションが「成績・受験」だった人が半数を超えた(11件)。“外国の人とコミュニケーションを取りたいという気持ち”、“ASLを覚えたいという気持ち”などといった「英語でのコミュニケーション」と“洋楽等の意味をもっと理解したい”などといった「娯楽・文化」が合わせて6件だった。受験やテストの成績以外にも、学習者が英語を使うことができているという実感や日常生活の中で英語を理解できていると感じる機会を増やすことで、モチベーションを維持しながら学習に向かうことができるようになることが示唆された。また、英語を勉強するうえで苦労したことについては、音に関する回答が10件、文法に関する回答が3件、英単語に関する回答が8件、その他が1件であった。英単語に関しては“暗記が難しい”や“単語一つ一つの意味はわかるけど、それが熟語や文になったときにわからなくなる”などがあげられた。

また、眞田(2014)を参考にし、質問紙調査の項目から抽出された聴覚障害生徒・学生の英語語彙学習方略の因子である「文脈・参照重視」、「分析・統合化」、「イメージ化」、「反復重視」、「感覚活用」の5つを用いて、対象の回答を分析した。そして、「手話ができない聴者とのコミュニケーションについて、どういう方法を取りますか?」という質問において、“口話”と回答した人(以下、口話群とする7人)と“筆談” (以下、筆談群とする13人)と回答した人で群分けして分析を進め、結果を図1にまとめた。

図1 英語語彙記憶方略パターンの出現割合

その結果、「文脈・参照重視」は口話群に多く、逆に「分析・統合化」は筆談群で多かった。繰り返し単語を書いて覚えるなどの「反復重視」は両群ともに多いが、相対的には筆談群に多いことが示された。また、「接頭辞・接尾辞が英単語習得に役立つと思うか」については、「はい」と回答したのが18件、「いいえ」と回答したのが2件となった。さらに、「フォニックスが英単語習得に役立つと思うか」については、「はい」と回答したのが17件、「いいえ」と回答したのが3件となった。

図2 接頭辞・接尾辞、フォニックスの有用性

4. 2. 英語授業について

 英語の授業に関して得られた意見は20件であった(なお、そのうち3件の回答については、適切な回答が得られなかったため分析対象外とした)。3. 2. 3. 2で示した手続きを用いて、「英語授業において求める改善点や教師に持ち合わせてほしい知識はなにか?」という質問について質的分析を行い、結果を表2にまとめた。

表2 英語授業において求める支援についての階層構造、回答例

《大》「焦」回答(焦点的コードに該当する部分は赤字
英単語・ 英文法指導についての要望英語の語構造に 関連した指導接頭辞・接尾辞とかも聾学校で教えてほしい。(a-1)
文法指導の徹底文法やルールを徹底してほしい。聞こえる人と聞こえない人の覚え方の違いとかも知りたい単語テストに意味を感じませんでした。だったらもっと、文章と絡めてほしい。(a-2)
文章と関連した英単語指導単語テストに意味を感じなかった。だったらもっと文章と絡めてほしい。(a-3)
英語授業における視覚的支援英語の板書の充実さ手話がないと先生たちは声に頼るが、それは困る。だから強いて言うのであれば、英語を書いて残してほしい。(b-1)
英語の読み方の補助英語の読み方とかはしっかりと書いてほしい。(b-2)
英語学習に 対する動機づけ娯楽や文化を通した 英語学習教科の英語も大事だが、映画とか音楽とかそういうとこで使われる英語を学びたい。遊びとして英語を使わないと飽きてしまう。(c-1)
英語を楽しいと思える活動読んだり書いたりするだけでなく、英語をもっと楽しいと感じることができるような内容を学んでいきたい。(c-2)
英語を使う機会できるだけ英語を使う機会を増やしてほしい。読むだけだと、書くことができなくなる。(c-3)
何かしらの形で英語を使う機会がほしい。そうしないと勉強のやる気がなくなってしまう。(c-4)
英語を通した コミュニケーション交流の機会を増やしたい。英語でコミュニケーションを取りたい。(c-5)
実態に合った授業の展開学習グループのレベルが合っていなかったため、高度な学びができなかった。もう少し、レベルに合った授業を受けたかった。(c-6)
音声活用に 関する要望聴者の中での発音の経験聴者の中で英語を喋るのはちょっと恥ずかしかったです。書いてみせるでも良いよってしてほしい。(d-1)
発声の強要声を強制してほしくない。(d-2)
聴覚障害に対する理解聴者と同じように発音できないことを理解してほしい。(d-3)
発音がわからないので、それは理解してほしい。人それぞれ障害の程度が違うことはわかってほしい。(d-4)
リスニングについて。口形を見れば良いというわけじゃないので、それをわかってほしい。(d-5)
教師の話すスピード先生の話すスピード等は考えてほしいです。 (d-6)

結果をまとめたところ、《英単語・英文法指導についての要望》(以下、英語指導とする)・《英語授業における視覚的支援》(以下、視覚的支援とする)・《英語学習に対する動機づけ》(以下、動機づけとする)・《音声活用に関する要望》(以下、音声活用とする)の4つが大カテゴリーとして抽出された。最も下位のカテゴリーである「回答」の数は≪英語指導≫に関するものが3件、≪視覚的支援≫が2件、≪動機づけ≫に関するものが6件、≪音声活用≫に関するものが6件となった。

5. 考察

5. 1. 聴覚障害者の英語語彙記憶方略パターン

英語語彙記憶方略については、口話群、筆談群のどちらも「反復重視」を使用する割合が高く、特に筆談群でよりその割合が高かった。それぞれの回答を見ると、“読む”、“書く”、“見る”など、様々な方法ではありながらも何度も反復しながら英単語にアプローチしていることがわかった。この方略は、健聴の学生、聴覚障害を有する学生どちらを対象にした先行研究においても重要な方略として報告されている(平野, 2000)。

口話群においては「文脈・参照重視」の割合が高く、英単語を英文や本、歌詞などと英単語を関連づけて記憶しようとしていることが推察された。口話群の回答を見ると、「自分で発音し、文を読んでみる」や「例文と一緒に英単語を覚える」等の意見があり、単語よりも大きな単位で英語を捉えることに抵抗がない回答が目立った。音声(音韻)の活用は英文を一握的に捉えその中に単語を位置付けることに寄与したことがこのような結果につながったと推察する。文脈を活用して英単語を学習する方略は、健聴及び聴覚障害を有する中学生・高校生を対象とした先行研究においても、その重要性が指摘されている(平野, 2001;眞田, 2014)。筆談群においては「分析・統合化」の割合が高く、単語の構造から分析して学習したり類似性に着目したりして英単語を記憶しようとしていると推察された。先行研究において、この方略は高い英語力との関連が示唆されており(堀野・市川, 1997)、眞田(2014)においても、聴覚障害学生の方略として抽出された1つであった。また、「感覚活用」の割合も筆談群においては高くなっている。聴覚情報が制限される聴覚障害児は情報を視覚化する必要があると考えられる。この方略の割合が高くなったことで、聴覚障害児が読み方等の音声情報を視覚化することによって英単語を記憶しようとしていると推察することができる。実際に、この方略は健聴学生では抽出されずに、眞田(2014)では抽出されているため、眞田(2014)が示した聴覚障害児特有の方略であるという見解と一致する。加えて、「感覚活用」と分類された対象それぞれの回答を見ると、「英単語にローマ字読みをあてはめていた」という回答が多く存在した(7件/9件)。聴覚障害を有することで、英語の発音についての理解が難しい学生にとっては、英語の読み方にローマ字をあてはめることが有効であると改めて示唆された。この学習方略に関しても先行研究において、使用されていることが報告されている(眞田, 2014)が、出現頻度は少ないことが示されており、今回の結果とは異なる。加えて、ローマ字読みの他に、自分の知っているカタカナ語に近づけるように読むという回答も存在した(ナイキやビューティフル等)。

5. 2. 英語語彙習得に求められる指導

 英語語彙記憶方略について5. 1で考察したが、実際にはどのような指導が有効であるのかを検討していく。接頭辞・接尾辞について、ほとんどの回答において英単語習得に役立つという回答が得られた。具体的には、「パズルのように法則があり、覚えやすい」や「単語同士で共通点があると理解が早まる」など、英単語を見て、その形から意味をとらえることができるようになると考えられる。さらに、「文章中の知らない英単語も接頭辞・接尾辞を見つけられたら意味を予想できる」や「それぞれのパーツに意味があるとわかると、文章中にあっても困らない」など、英文中にある英単語の意味の推測等にも用いることができると考えているような回答も目立った。しかし、「接頭辞・接尾辞に関する指導がありましたか?」の回答では、「あった」と回答したのが9件、「なかった」と回答したのが11件と、接頭辞・接尾辞の指導を経験した聴覚障害成人は半分に満たなかった。聴者は聴覚入力による偶発的な学習によって、直接的な指導がなくても接頭辞・接尾辞等を理解していくが、それが難しい聴覚障害児に対しては明示的に語の構造を指導していく必要がある。しかし、英語は日本語とも全く異なる言語構造を持ち、すべての構造を把握することは難しい。したがって、児童生徒の英語の力を判断しながら、必要な事項を指導していく必要がある(桃坂, 2023)。

 英語の文字と音とのつながりを学習するフォニックスについても、ほとんどの回答において英単語習得に役立つという回答が得られた。具体的には、「読み方も学習できるから役立つ」や「“あいうえお”のような日本語に近づけやすくなるから学びたい」など、英単語を日本語に近づけながら学習するときにフォニックスを役立てていることが考えられる。さらに、「ルールを学ぶことができると読みやすくなる」、「読み方もわかると、英単語の学習効率が良くなる」など、英語という第二言語においてもルールを学び、読み方がわかることが学習の一助になることがわかった。しかし、「フォニックスに関する指導がありましたか?」の回答では、「あった」と回答したのが3件、「なかった」と回答したのが17件と、フォニックスの指導を経験した聴覚障害成人はほとんど存在しなかった。今回インタビュー調査を実施した20名のほとんどが、フォニックスについては自分で気づくことができたと回答している。しかし、このようなルールについて、自分で気づくことができない者が一定数存在するだろう。「頭の中で英単語を再生できるようになった」や「読み方がわかると意味がわかるようになる」などの回答からもわかるように、文字と音とのつながりを学習することは効果があると考えられるため、接頭辞・接尾辞同様、明示的に指導していく必要があるといえる。

 接頭辞・接尾辞、フォニックス、どちらにも共通して言えることは、英語と日本語の構造の違いに着目して指導する必要があることである。聴覚障害児は、音声情報が不足すると思われるため、授業内でこれらのルールに気づくことができる機会を作る必要があるだろう。

5. 3. 聴覚障害者が英語授業において求める支援

英語指導については、ルールに基づいて英単語や英文法の指導をしてほしいという要望があった。実際に上記にも示した通り、「接頭辞・接尾辞の指導は英単語習得の役に立つと思いますか?」や「フォニックスの指導は英語学習に有効だと思いますか?」という質問ではほとんどの人が“はい”と回答した(接頭辞・接尾辞:18件/20件、フォニックス:17件/20件)。

視覚的支援については、学習者はいつでも授業の内容を振り返ることのできるような工夫を求めていることが明らかになった(b-1、b-2)。聴覚に障害を有する児童生徒にとって、指導や教材等を視覚化することが重要となってくること想像できるうえ、英語の読み方等に関してもルビ振り等で書き記す必要があると考えられる。

動機づけについては、英語の読み書きだけでなく娯楽や文化とつながるような英語の学習が外発的動機付けにつながることが明らかになった(c-1、c-2)。また、英語でのコミュニケーション活動を通して、学習者自身が英語を使うことができていると実感する機会を経ることが英語への学習意欲につながることが示唆された(c-3、c-4、c-5)。また、教師が学習者自身の実態に合った授業展開を努めることも、学習に向き合うために必要であることがわかった(c-6)。

音声活用については、聴者と同じように発音できないことを理解してほしいという要望が多く(d-1、d-2、d-3、d-4)、さらには教師の授業の進め方についての回答もあり(d-5、d-6)、聴覚障害に対する正しい知識を教師が持ち合わせることの重要性が示唆された。

文献

  • 平野絹枝(2000) 日本人EFL中学生の英語語彙学習方略―学習年数経験と性差の影響―. 上越教育大学研究紀要, 19(2), 719-731.
  • 平野絹枝(2001) 日本人中学生・高校生の英語語彙学習方略―学習経験年数と性差の影響―. 上越教育大学研究紀要, 20(2), 467-471.
  • 堀野緑・市川伸一(1997) 高校生の英語学習における学習動機と学習方略. 教育心理学研究, 45, 140-147.
  • 石田裕貴・鄭仁豪(2022)聴覚障害者のコミュニケーションモードとワーキングメモリ方略に関する研究. 障害科学研究, 46, 1-12.
  • 金恩河・四日市章(2012)特別支援学校(聴覚障害)の英語指導における困難点と指導上の工夫.障害科学研究, 36, 121-134.
  • 楠見友輔(2017)知的障害児との交流の質を規定する条件-交流経験の語りの質的分析-. 特殊教育学研究, 55(4), 189-199.
  • Meara, P.(1996)The dimension of lexical competence. In G. Brown, K. Malmkjar & J.Williams(eds.) Performance and competence in second language acquisition. Cambridge: Cambridge University Press, 35-53.
  • 桃坂七海(2023)英語科における記憶の課題-英単語の記憶方法に着目して-. 福岡教育大学大学院教職実践専攻年報, 13, 381-390.
  • 文部科学省編 (2017) 『小学校学習指導要領(平成29年告示)解説 外国語活動・外国語編 平成29年7月』
  • 文部科学省編 (2017) 『中学校学習指導要領(平成29年告示)解説 外国語編 平成29年7月』
  • 文部科学省編 (2018) 『高等学校学習指導要領(平成30年告示)解説 外国語編 英語編 平成30年7月』
  • 日本学術会議(2012)「報告 大学教育の分野別質保証のための教育課程編成上の参照基準 言語・文学分野」.
  • 眞田里佐・鄭仁豪(2014) 聴覚障害学生の英語語彙学習方略に関する研究. 聴覚言語障害, 43(1), 1-14.
  • 佐藤郁哉(2008) 質的データ分析法―原理・方法・実践―. 新曜社.
  • 寺田理紗・岩田吉生(2017) 聴覚障害学生の英語教育の課題に関する文献的検討. 障害者教育・福祉学研究, 13, 147-151.
  • 長南浩人(2004) 聴覚障害者の記憶における符号化:日本語単語とそれに対応する絵と手話を材料にして. 教育心理学研究, 52(2), 107-114.
  • 太田聡一(2021).聴覚障害学生を対象としたオーラルコミュニケーションを含む英語授業の現状と課題―東北福祉大学必修外国語教育における現状と課題についての一考察―
  • Oxford, R., & Scarcella, R.C. (1994) Second. language vocabulary learning among adults: State of the art in vocabulary instruction. System, 22(2), 231-243.

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