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研究1-1 聴覚特別支援学校英語科担当教員を対象とした調査

-教員の属性を中心に-

  • 吉田有里(都立立川学園・東京学芸大学教育学研究科)
  • 濱田豊彦(東京学芸大学)

1.近年の英語教育の変容

文部科学省はグローバル人材を3つの要素から定義しており、その一つが語学力・コミュニケーション能力(要素Ⅰ)である。グローバル人材育成に対応した英語教育の強化が求められる中で、2020年から小学校で、2021年に中学校で、2022年から高等学校で新学習指導要領が実施された(文部科学省,2017)。小学校中学年から「外国語活動」が年間35単位時間始まり、高学年で「外国語科」が年間70単位時間導入され英語が教科化された。以前の学習指導要領と比べると小学校で英語に触れる時間が3倍に増加した。「聞くこと」「話すこと」「読むこと」「書くこと」の4技能のうち、「話すこと」が[やり取り]と[発表]に分かれ、4技能・5領域になった。[やり取り]は複数の話者が相互に話す場合を、[発表]は一人の話者が連続して話す場合を想定している。文法の扱いでは、これまでは高等学校で学習していた現在完了進行形や仮定法が中学校段階の言語材料となった。また、授業を実際のコミュニケーションの場面とするため、中学校でも授業は英語で行うことを基本とすることとなった。

東京都では、体験型英語学習施設「Tokyo Global Gateway」が2箇所開設されたり、公立中学校3年生全員を対象に中学校英語スピーキングテスト(ESAT-J)が開始されたり、都立学校生の海外派遣が拡充されるなど、グローバル人材の育成が進められている。

大きな変革期にある英語教育に対して、様々な意見が寄せられている。ベネッセ教育総合研究所が2023年に発表した「小学校英語に関する調査研究」では、学習指導要領全面実施後に英語を学んだ小学校6年生の英語力は、移行措置期間に学んだ小学校6年生よりも4つ全ての領域で上昇した。しかし、文部科学省が実施した全国学力・学習状況調査中学校英語の平均正答率は、年度によって出題内容も異なることから、過年度の結果と単純に比較することはできないが、56.5%(平成31年度)から46.1%(令和4年度)に低下した。江利川(2023)は和歌山国民教育研究所のアンケート調査結果から、新しい教科書は難しくなり、語彙については多すぎると、学習指導要領が改悪されたと論じている。

日本語を意図的な学習を通じて習得している聴覚障害児にとって英語の学習は、聴児以上に大きな困難を伴う場合が多いと報告されている(高尾,2020)。また今回の改訂のポイントはより早期化だけでなく、求める力として従来の「読み」「書き」から「聞く」「話す」を含めた4技能に広がっていることも、教育現場を戸惑わせている一因となっている。

2.研究目的

本研究では全国の聴覚特別支援学校小学部・中学部・高等部で英語を担当している教員に対して、質問紙調査を行い、担当教員属性を中心にその実態を明らかにすることを目的とした。

3.方法

(1)調査対象

 全国の聴覚特別支援学校で外国語(英語)を担当している教員を調査対象とした。なお、研究にあたり各校の校長から承諾を得たうえで、教員に書面で説明を行い、同意を得られた者を対象に研究を行なった。

(2)調査手続き

質問紙による実態調査を行った。2022年2月~3月の間に郵送により書面による依頼およびアンケートを配布し、回答は指定したURLよりMicrosoft Formsに入って入力させた。100名の教員から回答を得た。

4.結果

(1)所属学部について

外国語科の指導を担当している教員の所属学部について、「幼稚部」「小学部」「中学部」「高等部」から選択するよう求めた。この問いに対し、100名全員から回答を得た。幼稚部に所属し、外国語科を担当している教員は2名、小学部に所属し、外国語科を担当している教員は23名、中学部に所属し、外国語科を担当している教員は36名、高等部に所属し、外国語科を担当している教員は39名だった(図1)。

図1  所属学部(n=100)

(2)所有免許状

外国語科を担当している教員に、「小学校教諭免許」「中学校教諭免許状(英語)」「高等学校教諭免許状(英語)」「特別支援学校(聴覚障害)」から所有している免許状すべて選択するよう求めた。この問いに対し、100名全員から回答を得た(図2)。

図2 所有免許状(n=100)

(3)聴覚特別支援学校における英語(準ずる課程)の指導経験年数

外国語科を担当している教員に、聴覚特別支援学校における英語(準ずる課程)の指導経験年数を、今年度を1として回答を求めた。この問いに対し、100名全員から回答を得た。

1年が21名、2年が14名、3年が15名、4年が10名、5年が5名、6年が4名、7年が6名、8年が3名、9年が1名、11年が2名、12年が5名、13年が4名、14年が1名、16年が2名、17年が1名、20年が3名、22年が1名、24年が1名、33年が1名であった(図3)。3年以下の経験者が50%を占めた。

図3 聴覚特別支援学校における英語(準ずる課程)の指導経験年数n=100)

(4)通常の学校における英語の指導経験年数

外国語科を担当している教員に、通常の学校での英語の指導経験年数を今年度を1として回答を求めた。この問いに対し、100名全員から回答を得た。

0年が50名、1年が5名、2年が1名、3年が8名、4年が3名、5年が4名、6年が3名、7年が2名、8年が3名、9年が2名、10年が3名、11年が2名、12年が2名、13年が2名、14年が1名、15年が1名、16年が1名、17年が1名、19年が1名、24年が1名、25年が1名、35年が1名、39年が1名、40年が1名であった(図4)。通常の学校の指導経験がない者が50%を占めた。

図4 通常の学校における英語の指導経験年数(n=100)

(5)教員自身の英語力(自己評価) 

外国語科を担当している教員に、教員自身の英語力について自由記述で回答を求めた。この問いに対し、100名全員から回答を得た。

各資格・検定試験とCEFRとの対照表(文部科学省,2018)を参考に、A1からC1までの範囲でまとめた。A1相当が6名、A2相当が8名、B1相当が27名、B2相当が41名、C1相当が7名、その他が11名であった。判断ができないその他11名を除いた英語担当教員の英語力を示した(図5)。B2レベル相当以上の教員の割合は53.93%であった。

図5教員の英語力(n=89)

(6)小学部の外国語を担当している教員の割合

今年度小学部の外国語を担当しているか「はい」「いいえ」の2択式で回答を求めた。この問いに対し、100名全員から回答を得た。42名の教員が「はい」と回答し、58名が「いいえ」と回答した(図6)。

図6.小学部を担当している教員の割合(n=100)

小学部外国語科を担当している教員42名のうち、1名が幼稚部、21名が小学部、10名が中学部、10名が高等部に所属していた。42名のうち小学校教諭免許状を所有している者が24名、所有していない者が19名だった。42名のうち中学校教諭免許状(英語)か高等学校教諭免許状(英語)のいずれかを所有している者は31名、所有していない者は11名だった。

(7)中学部を担当している教員の割合

今年度中学部の外国語を担当しているかを「はい」「いいえ」の2択式で回答を求めた。この問いに対し、100名全員から回答を得た。42名の教員が「はい」と回答し、58名が「いいえ」と回答した(図7)。

図7 中学部を担当している教員の割合(n=100)

(8)中学部の使用教科書

使用している教科書について、現在中学部を担当する42名全員から回答を得た(図8)。

東京書籍のNew Horizonが約6割を占めた。

図8 中学部の使用教科書(n=42)

(9)グローバル人材の育成について

小学部・中学部・高等部のいずれかで英語を担当している教員に、グローバル人材育成のために聴覚障害児への英語教育で重視されることついて上位3項目について回答を求めたところ、100名から回答を得た(図9)。4技能の中では「読むこと」「書くこと」に関する項目が上位であった。

図9 グローバル人材について

5.考察

聴覚特別支援学校で英語を担当している教員の50%が通常の学校で英語を指導した経験が全くないことがわかった。また、聴覚特別支援学校で英語を教える経験も3年以内が50%であった。「英語教育実施状況調査」概要(文部科学省,2023)によると、CEFR B2レベル相当以上を取得している英語担当教員の割合は、中学校で41.6%、高等学校で72.3%である。聴覚特別支援学校で英語を教えている教員の英語力も自己申告制ではあるがB2レベル相当以上の割合は53.93%であった。中学校教諭免許状(英語)の免許を所有している教員でCEFR B2レベル相当以上の英語担当教員の割合は79.49%、高等学校教諭免許状(英語)の免許を所有している教員でCEFR B2レベル相当以上の英語担当教員の割合は84.81%であった。以上のことから、聴覚特別支援学校で英語を担当している教員の英語力が、通常の学校の教員よりも低いわけではないことが示唆された。

全国聾学校長会(2011)が『聾学校における専門性を高めるための教員研修用テキスト改訂版』で挙げている聴覚障害の主な専門性の1つが「障害の特性を考慮した適切な方法による教科指導の専門性」である。教員の英語力は教科指導の専門性の1つということができるが、聴覚障害はコミュニケーションの障害であり、聴覚からのインプットが制限される中で日本語や手話を使って英語を教えるためには、英語力が高いだけでは十分とは言えない。聴覚障害児の実態に応じてどのような指導を実現していくための、研修制度の構築が今後の課題となると考える。

参考文献

  • ベネッセ教育総合研究所(2023)小学校英語に関する調査研究. https://berd.benesse.jp/up_images/research/research_230830.pdf (2024年1月16日閲覧)
  • 江利川春雄(2023)英語と日本人 ――挫折と希望の二〇〇年. 筑摩書房.
  • 笠島準一・関典明ほか39名(2016)NEW HORIZON English Course1~3.東京書籍株式会社.
  • 文部科学省(2020)聴覚障害教育の手引 言語に関する指導の充実を目指して.
  • 文部科学省(2023)令和4年度「英語教育実施状況調査」概要.https://www.mext.go.jp/content/20230516-mxt_kyoiku01-00029835_1.pdf (2024年1月16日閲覧)
  • 全国聾学校長会(2011)聾学校における専門性を高めるための教員研修用テキスト改訂版.

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