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ASDを合併する聴覚障害児の類型化と介入効果に関する縦断研究

研究の目的と概要
ASDは視線が合わない等の独特の対人行動や文脈理解の困難さ、語の一義的理解などにより、コミュニケーションの困難(伊藤2012,内山2013)が生じやすく、それ故、彼らのナラティブ(narrative:叙述)に関する研究が注目されています(藤野2009,李2011)。一方、聴覚障害児は、言語獲得や抽象的思考、そして社会性の発達に困難を示す者がいることが指摘され(濵田2005、澤1995、2004)、ASDとメカニズムは異なるものの言葉で喚起されるイメージの狭さなど,結果としてASDに似た困難を持つことが少なくありません(濵田2010)。

これまで、申請者らは平成19~21年度にかけての基盤研究(C) および23~25年度の基盤研究(B)の助成を受け、聴覚特別支援学校や難聴学級在籍及び通級児を対象にした全国調査を実施しました。知的に著しい困難を持たない発達障害を合併する聴覚障害児が相当数(33%)存在する可能性を示す(Hamada2009)とともに、聴覚障害ゆえに生じる二次困難と発達障害を合併することによる困難の鑑別チェックシートを作成・検証しました(大鹿2014)。そして抽出された合併事例に対して縦断指導を行い、指導方法や教材の提案を行ってきた(濵田2012,2013)。これらの研究を通して明らかになったことの一つは、教育現場で教員の負担感が大きいのが発達障害の中でもASDと聴覚障害の合併事例であり、彼らの直面している困難が単一障害に比べより重篤で、各単一障害への指導方法を合わせただけでは解決しないものが少なくないということでした。

本研究では、知的障害の無い自閉症スペクトラム障害 (以下、ASDとする)を合併する聴覚障害児の類型化とその類型に応じた指導法の開発を目指す。具体の目的は以下の4点としました。

1)ASDを合併する聴覚障害児の困難と学校内の支援体制の現状を明らかにしました。

2)ASDを合併する聴覚障害児の談話の特徴を量的・質的に明らかにし、対照群との比較からその特徴を明らかにしました。

3)状況把握に関連する視線解析と談話能力との関係を分析検討しました。

4)対象児ごとの認知面に配慮した縦断的かつ長期的な指導を通じて、ASDを合併する聴覚障害児の体系的な指導方法を提案し公開しました(新型コロナウィルス感染予防の観点から一部の公開セミナーを中止せざる得ないこともありました)。

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