手話を主たるコミュニケーション手段としている重度聴覚障害児の多くは、読み書きのベースとなる音韻意識の習得にかな文字(指文字)の影響が大きいことが知られています(近藤ら2011)。ところが英語はかな文字と異なり綴りと語音の関係は1 対1 対応ではないため、聴覚障害児にとっての英語学習(特に単語の記憶)の大きな負担となっています。2020 年度より小学校で英語が教科として本格実施され、聴覚特別支援学校でも教科としての学習がスタートしています。
語彙の取り扱いにも変化が見られ、指導する語数は大幅に増加した。旧学習指導要領では中学校で1200語程度、高等学校で1800語程度、高校卒業レベルでは3000語程度だったが、新学習指導要領では小学校で600〜700語程度、中学校で1600〜1800語程度、高等学校で1800〜2500語程度に増加し、高校卒業レベルでは4000〜5000語程度に増加しました。
中学生から教科として英語を学んでいたこれまでの先行研究においても、日本語を意図的な学習を通じて習得している聴覚障害児にとって英語の学習は、聴児以上に大きな困難を伴う場合が多いと報告されています(高尾,2020)。例えば田邊ら(2003)は、聴覚障害児は日本語と日本の手話に続く3つ目の言語として、英語を学習することになり、これは聞こえる生徒よりもさらに1つ言葉を覚えるという負担であると指摘しています。早川(2005)は高等部3年生の英語力について、中学卒業程度(英検3級程度)の英語力を身につけているのは、全体のわずか5%であると言っており、その最大の原因は単語力の不足であると述べています。
そこで本研究は、手話を活用している聴覚障害児が英語の音韻(言語単位)を習得し円滑に英語単語学習に取り組めるための条件(要因)を検討し、各自の状況に応じた効果的な指導法のエビデンスを得ることを目的としました。
1) 全国の聴覚特別支援学校における外国語(英語)指導の困難や工夫における実態把握
2) 英語指導におけるフリガナ活用に関する検討
3) 聴覚障害児の認知的特徴と英単語学習方略の関連性
4) 聴覚障害児童に対するフォニックスを活用した縦断指導
研究期間中、繰り返し生じた新型コロナウイルス感染症の影響で児童生徒を対象とした調査研究が円滑に進まないこともあったが、一年間の延長でそれなりの成果を得ることができました。協力いただいた学校の先生方子ども達に改めて感謝いたします。本研究の成果が少しでも日々の教育実践に寄与するならばこれ以上の喜びはありません。
研究代表者 濵田豊彦
研究代表者
濵田豊彦(東京学芸大学 教育学部)
研究分担者
高山芳樹(東京学芸大学 教育学部)
大鹿 綾(東京学芸大学 教育学部)
櫛山 櫻(国立国際医療研究センター・国立看護大学校)
喜屋武睦(福岡教育大学 教育学部)
渡部杏菜(筑波技術大学 障害者高等教育研究支援センター)※2021年から
研究協力者
吉田有里(都立立川学園・東京学芸大学教育学研究科)
小林汰門(東京学芸大学 教育学研究科)
佐藤楽夏(都立立川学園)