研究の目的と概要
聴覚障害児には、言語や抽象的思考、そして社会性の発達に困難を示す者がいることが指摘されていますが、彼らの全てが困難を示すわけではありません。近年の手話や人工内耳を活用した教育においても、年齢相応の発達を遂げる群と停滞する一群があることが明らかになってきています(川崎2004、山本2004)。アメリカでは古くから指摘があるように(ASHA 1984)、言語発達に困難を示す聴覚障害児の中にはいわゆる発達障害を併せ持つ者が一定の割合で存在すると考えられます。
我々は平成19年度から21年度にかけて基盤研究(C)を受け、聾学校や難聴学級在籍(通級)児を対象にした全国調査を実施し、知的に著しい困難を持たない発達障害を合併する聴覚障害児が相当数(33%)存在する可能性があり(濵田2008)、また彼らの困難のタイプにより6つの群に分かれることを示しました(大鹿2009)。
発達障害の合併の可能性があるとされる子どもたちの中には、聴覚障害ゆえの二次障害の可能性が否定できない者も含め、直面している困難が単一障害の場合よりも重篤であるものが少なくありません。本研究においては、発達障害に聴覚障害が加わることによって生じる困難の特徴にはどのようなものがあるのか、またどの様な教育的支援が有効であるのかを明らかとすることを目指しました。
具体的には下記の主に3つの取り組みを行いました。
1)聴覚障害児に合わせた発達障害チェックリストを作成し全国調査を行うと共に、教員の各児への印象との関連から検討を行いました。
2)状況理解をする際の視線分析を行い談話の特徴と合わせて、発達障害(自閉症スペクトラム)単独群と聴覚障害のある自閉症スペクトラム群の違いを検討しました。
3)発達障害のある聴覚障害児に継続的な支援を行う中から、効果的な支援方法や教材を開発しました。
また、海外の聴覚障害児教育に関する視察報告をすると共に、発達障害に関する取り組みに参考になるものを紹介します。
研究組織
研究代表者 濵田豊彦 (東京学芸大学 教育学部)
研究分担者 長南浩人 (筑波技術大学 障害者高等教育研究支援センター)
連携研究者 藤野 博 (東京学芸大学 教育学部)
澤 隆史 (東京学芸大学 教育学部)
研究協力者 大鹿 綾 (日本学術振興会特別研究員)
稲葉啓太 (東京学芸大学大学院教育学研究科)
喜屋武睦 (東京学芸大学大学院教育学研究科)
渡部杏菜 (東京学芸大学大学院教育学研究科)
濱崎久美子 (東京愛育苑 金町学園)
伴 亨夫 (東京都教育委員会)
荒川早月 (都立大塚ろう学校)
田原佳子 (県立千葉聾学校)
高井小織 (京都市立二条中学校)
山口 淳 (台東区立柏葉中学校)
石坂光敏 (日野市立東光寺小学校)
研究報告
研究報告はダウンロードページにPDFファイルで用意しています。
ダウンロードをしてご活用いただけますと幸いです。