PDFファイルの表示にはAdobe Readerなどの閲覧ソフトが必要です。Adobe社から無料で入手できます。

 
研究3−1 視線の特徴に関する研究
研究3−2 字幕や状況絵の4群の視線
研究3−3 視線と音韻意識


 
科学研究費補助金(16H03809)報告
研究3−1

談話課題における視線の停留と
談話の特徴に関する研究
定型発達児、聴覚障害児、ASD児、合併する聴覚障害児を比較して

岩田能理子(都立大塚ろう学校)
 M田豊彦(東京学芸大学)

私たちは、様々な感覚を使用して生活をしており、その感覚を通して、環境のもつ情報を知覚し、認識している。感覚の優位性は、社会や文化、生活などに依存するが、現代社会においては、外界の情報の8割を視覚に依存すると言われている(藤田ら,2015)。そして、その視覚による情報処理には、中心視と周辺視がある。

中心視では、見たい物体を捉えるために、眼球を動かし、網膜上にある中心窩に達した映像のみを知覚し、認識する。中心視における眼球運動は、視覚系の最初の反応であり、私たちの知覚・認識の基本となる(松宮,1998;井上,1996)。一方、周辺視では、視野の周辺部の広い範囲の動きや位置を漠然と捉えている。視覚のほとんどは、周辺視で行われており、視環境の安定性と恒常性を常に保持するための緩衝系として機能している(苧阪,1981a;石垣,1987)。視覚認知に関しても、障害によって特異性があることが指摘されており、オンライン研究による中心視の眼球運動に関する研究が多くみられる

聴覚障害児は聞こえにくさに伴い、視覚情報が相対的に重要な情報になることが容易に考えられる。しかし、聴覚障害児の視覚認知に関する先行研究において一貫した知見は得られていない。聴覚障害を有することで言語系を媒介とした一般的な経験が乏しく、そのことにより視知覚能力の発達遅滞が見られるという知見がある(鹿取,1976)。例えば、聴覚障害者を対象に文字・数字・図の認知について横断的に検討したところ、小学4年生程度から高校までに認知能力の成長が見られず、聴者より低い認知能力であると指摘されている(野村,1977:野村,1979)。また、苧阪ら(1981b)は、聴覚障害者を対象に、光点を追視させる課題を行ったところ、1点注視においては、動揺が大きく、小さなサッケードがみられ、Z字を追視する課題では、聴覚障害の高校生においては成績が良くなく、発達の鈍化が示された。

一方で聞こえにくさを補うために、他感覚が優れ、聴児より視覚認知が優れていると示す研究もある。深間内ら(2007)は、聴覚障害者を対象に標的刺激の差異について反応を求める課題を実施したところ、聴覚障害者は限られた時間内にできるだけ多くの視覚情報をインプットしようとすることが明らかになった。平澤・荒木(2013)は、聴覚障害者を対象にストループ課題を実施したところ、聴覚障害群は定型発達群よりも逆ストループ干渉を受けやすく、ストループ干渉を受けにくいことが示され、視覚的な妨害を受けやすいことが明らかになった。このことから視覚の優位さが示唆された。そのほかにも、視覚的心像のイメージを扱う能力について検討を行ったところ、聴覚障害者は複雑なイメージであっても理解できること(Emmoreyら,1993)、手話の使用経験が顔の識別能力を高めること(Bettgerら,1997) 、手話を使用するろう者が顔の認識能力が優れていること(Beluggiら,1990)、周囲の動きに対する視覚的探知能力が優れていること(Neville & Lawson,1987)が明らかになっている。

一方、ASD児は「相手の目を見ない、視線が合いにくい」といった行動特徴が見られ、この行動特徴は自閉症の診断にも用いられるほどの特徴的な臨床像である(DSM-V:American Psychiatric Association,2000)。

この臨床像に加え、特異的な視覚認知が行われていると言われている。Happe & Firth(2006)は、ASDの視覚認知スタイルについて部分的な処理が優位にはたらき、その結果として全体処理の優位性が低下していることを指摘している。実際に、隠し絵課題やWISC・WAISの積み木の課題(Shah & Frith,1983;1993)、視覚的探索課題(O’Riordanら,2001 Plaisted,O’Riordan,& Baron-Cohen,1998)をASD対象に行ったところ、全体の情報に引きずられることなく、部分的な情報を用いた認知により好成績を示したことを指摘している。また、顔に対する認識も同様であり、定型発達者群は顔を倒立させると判別するのが難しくなるのに対し、ASDは部分的に顔を捉える傾向があるため、倒立させた顔であっても容易に判別できることが示されている(Langdell,1978)。

部分的な認知だけでなく、注目する箇所の特異性も指摘されている。表情の認知に関して、定型発達群も、ASD群も幼いころは相手の目を見ているが(Bar-Haim et al.,2006 ; van der Geest et al.,2002 )、大人になると、ASD群は口元を注目することが言われている(Dalton et al.,2005 ; Klinら,2002 ; Pelphrey et al.,2002)。実際に、中野・北澤(2010)が幼児向けの番組を用いて、視聴しているときの視線の動きについて検討を行ったところ、ASD群は顔の部位のなかで口への注視時間が長く、会話場面においては登場人物の顔ではなく、手や顔周辺を注視していた。また、テロップがある場面では、登場人物に注視せず、テロップを注視していた。成瀬ら(2011)は、表情刺激を見せ、選択肢の中から表情の名前について答える課題を行ったところ、6表情すべてにおいて、ASD児の注視時間が短く、表情刺激を好まないことが推測された。さらに、永瀬ら(2013)は、漫才とコントを用いて視覚による情報入力について検討した結果、定型発達者と比較して、ASD者は人物の顔以外の部分を注視することがわかった。ASD児は全体より部分に着目する傾向があること、目よりも口を注視するものの、そもそも表情刺激を好まないことが示唆されている。

最近はASDを併せ有する聴覚障害児の存在についても注目されつつある(大鹿・濱田ら、2014)。このような子どもたちは、聴覚障害ゆえ、視覚情報に頼りたいにも関わらず、ASDによる視覚認知の特異性により、困難さがより複雑になっていることが考えられる。この困難さを小さくすることができるようASDを合併する聴覚障害児の視覚認知とナラティブの関連について明らかにすることを目的する。なお、本研究では、ナラティブと談話に関して、複数の文を扱うという観点から、ナラティブと談話を特に区別することなく、述べていくこととする。

  
研究3-1報告書(PDF 918KB)


 
科学研究費補助金(16H03809)報告
研究3−2

発達性読み書き障害様の困難を併せ有する
聴覚障害児における
字幕の読み取りに関する一研究

松田 桜(都立大塚ろう学校)
 M田豊彦(東京学芸大学)

平成9年の放送法改正により、字幕番組及び音声解説番組をできる限り多く設けなければならないとする放送努力義務が規定された。これを受けて、平成19年には「視聴覚障害者向け放送普及行政の指針」を策定、平成24年には同方針を一部改正し、大規模災害時の字幕放送対応なども目標に加えられた。

一方で、教育現場においても映像機器の導入が進んでおり、平成28年に文部科学省は「2020年代に向けた教育の情報化に関する懇談会」のまとめとして、児童生徒に一人一台のタブレット端末を普及させることなどを目標とした「教育の情報化加速化プラン」を策定した。今後もより一層授業において、テレビ番組やインターネット上の映像を用いた学習が拡大していくと考えられる。多くの場合、画像や映像には音声言語が付与されているが、聴覚障害児の特性上それらの音声言語を聞き取ることは難しい。そのため、一般的に音声言語を文字化して、字幕として付与することが情報保障として行われている。聴覚障害児がより多くの情報を正確に得るためには、字幕の読み取りは欠かせないものになっている。

紙面や聞き取りによる主観評価に基づき、聴覚障害児にむけた字幕の最適性について検討を行った先行研究はいくつか散見される。字幕の提示内容に関する研究では、岡田(1985)は字幕挿入率と内容理解、字幕言語水準、字幕提示時間の関係について調査を行い、聴覚障害児の発達段階に応じて台詞の内容を要約して呈示する方法が有効だとしている。一方で小畑(1985)は、字幕挿入装置の改良や、文字量や表示時間の分析に基づいた字幕挿入の数量的範囲の検討を行ったところ、台詞に忠実な字幕の挿入に関して、要約字幕よりも高い効果を得られることを明らかにした。字幕の呈示方法に関しては、字幕の内容によって最適な方法が様々であった。川原(2011)は、字幕を上から下に流れるエンドロール形式で提示したところ、ニュース番組において内容理解度で有意に高い結果を得たとしている。石原ら(1989)は、ドラマのような心情の推移が内容の中心となる番組は、文字量の確保が重要であるとし、理科実験番組では字幕の提示時間を延長し、字幕と映像に集中させることで内容理解が高まることを明らかにした。また、聴覚障害児の場合、声色や話す速さなどの音声言語で表される感情表現を得ることが難しい。そこで様々な形の吹き出しやフォントなどを使い分けたところ、対話場面において有意に感情表現の理解に効果があったことを報告している(紺屋ら,2013)。

また、聴覚障害児が字幕を読み取る際の眼球運動を捉え、特徴を分析する研究も行われている。四日市(1999)は角膜反射式のアイカメラを用いて、聾学校中学部に在籍する言語能力の高い重度聴覚障害児を対象に、字幕付きテレビ番組を視聴しているときの注視点の動きを観察し、字幕の注視の割合や字幕が呈示された際の眼球の移動時間を明らかにした。聞き取り調査と共に、字幕を読んでいるときの眼球運動を測定し読返しの多さを定量的に調べることで、字幕の読みにくさが話し言葉固有の表現からきていることも示された。(中野ら、2014)これらにより、字幕を読み取る際の眼球運動には特徴があり、それらの運動は字幕の内容理解に影響を受けることが示唆された。これらの研究は全て字幕を情報源として活用できる聴覚障害者を対象としたものである。

一方で、発達障害があると背景に注意が向いたり、知覚的な統合に課題があったりと聴覚障害児とは異なる困難があるとされている。しかし、発達障害を合併する聴覚障害児の字幕の読み取りや背景となる状況の読み取りの困難の原因を探ったり、困難を改善するための支援方法を検討したりした研究は十分になされていない。

  
研究3-2報告書(PDF 1,390KB)


 
科学研究費補助金(16H03809)報告
研究3−3

発達障害を併せ有する聴覚障害児の
早期鑑別のための基礎的研究
― 音韻意識の発達と口形の関連についての一研究 −

森ア 茜(東京学芸大学大学院)
 M田豊彦(東京学芸大学)

1−1.聴覚障害児の音韻意識の発達

音韻意識とは、音の連鎖からなる話しことばの意味的な側面ではなく、音韻的な側面に注目し、話しことばの音韻構造を把握し、その中の音韻的な単位に気づき、識別し、操作する能力をさす(原,2003)。聴児の音韻意識の発達について、天野(1970)は、聴児が音韻のまとまりに着目し、その言語的な分節単位に気付く能力が発達する概略的年齢は4歳から6歳ごろにかけてであることを示した。聴覚障害児においては、5歳から7歳代にかけて緩慢な形で現れることがわかった(齋藤,1978;1979)。

聴覚障害児は緩慢ではあるが、聴児と同様の発達をする。では、音声入力に制限のある聴覚障害児において、音韻意識の発達を促す要因はどのようなものがあるのか。長南・齋藤(2007)は音節分解と音節抽出の課題を用い、人工内耳装用児の音韻表象が音のイメージによって形成されていることを示唆した。河野(2008)は、聴覚に障害があるとまず、音韻の認識がうまくできないため、文字を先に提示して、それを音韻(口形や構音)と結びつけること、あるいは音韻と文字とを同時に提示することで効果があるのだろうとしている。また、近藤(2011)は、手話併用環境にある聴覚障害児の音韻意識に関する実験において、文字や指文字の習得に伴い、視覚的に音韻的側面に着目できるようになったことから文字や指文字といった視覚的手段を手がかりに分解を行っているのではないかと報告している。このように視覚的手段である文字から音韻意識を発達させていく研究がいくつかみられる。さらに、早期から親子間のコミュニケーションを成立させ、音声言語の発達を促進するためには、文字や手指言語を早期から活用することが必要(鈴木・能登谷,1993)という報告や、日本語の獲得を助ける重要な役割として指文字が、多くの聾学校の幼稚部段階から活用されてきた(我妻,2008)という報告がある。視覚的手段を活用することで、聴覚障害児の音韻意識を発達させることがより可能になることが分かる。

1−2.コミュニケーションと視線の役割

聴覚障害乳幼児においては、野中ら(2003)が、情動的認知の発達を示す指標である注視行動と言語発達との関連を検討している。それによると、注視回数や注視時間が多かったり長かったりするほど言語発達は良好であったとされている。この結果から野中らは、乳児期に難聴が発見された場合、相手をじっと見る子に育つよう、すなわち言葉の基盤を育てておくことが重要であるとした。

手話と視線の関係についての研究はまず雁丸・四日市(2005)がある。手話の読み取りにおける注視点について検討をした雁丸・四日市は、聾者は主に口、あるいは顔に注視点を置き、周辺視野によって手指の動きを捉えていることを報告しており、健聴者でも手話が熟達するほど手話を読み取る際に顔への注視率が高くなることが指摘されている(市川ら,2005;親松ら,2014)。

長南(2003)は「聴覚活用や口声模倣は、(中略)音韻表象を聴覚障害児の脳内に形成する役割があったこと(中略)を見落としているような気がしてならない」と述べており、さらに脇中(2009)は、聴覚活用が厳しい子どもの場合には、音韻意識の形成のためには発声模倣ないし口形模倣が必要であることを自身の経験を踏まえた上で述べている。さらに口形を意識させることで、音韻意識の形成のみならず、口形が相手の伝えたいことを知るうえでの情報源となり、手話表現では補うことのできない日本語も理解することが容易になるということも考えられる。広田(1993)は、早期診断による乳幼児期からの教育では聴覚口話法適用の有効性が高まったことを指摘した。このように口形意識は聴覚障害児の言語獲得において良い効果を及ぼすことが可能であることが考えられる。しかし、文字や指文字と音韻意識の発達に関する研究は散見する(長南・齋藤,2007;河野,2008;近藤,2011;鈴木・能登谷,1993)が、口形意識との関連研究は知る限りない。

一方でASDをはじめとする発達障害があると「相手の目を見ない、視線が合いにくい」といった行動特徴が見られ、この行動特徴は自閉症の診断にも用いられるほどの特徴的な臨床像である(DSM-V:American Psychiatric Association,2000)。

この臨床像に加え、特異的な視覚認知が行われていると言われている。Happe & Firth(2006)は、ASDの視覚認知スタイルについて部分的な処理が優位にはたらき、その結果として全体処理の優位性が低下していることを指摘している。実際に、隠し絵課題やWISC・WAISの積み木の課題(Shah & Frith,1983;1993)、視覚的探索課題(O’Riordanら,2001 Plaisted,O’Riordan,& Baron-Cohen,1998)をASD対象に行ったところ、全体の情報に引きずられることなく、部分的な情報を用いた認知により好成績を示したことを指摘している。また、顔に対する認識も同様であり、定型発達者群は顔を倒立させると判別するのが難しくなるのに対し、ASDは部分的に顔を捉える傾向があるため、倒立させた顔であっても容易に判別できることが示されている(Langdell,1978)。

音韻意識形成期の聴覚障害児の顔や口への視線の発達的変化を整理することは、鑑別をしづらい幼児期の発達障害の鑑別に寄与すると考える。

  
研究3-3報告書(PDF 258KB)
 

 

東京学芸大学総合教育学系特別支援科学講座 M田研究室
〒184-8501 東京都小金井市貫井北町4-1-1
Copyright 2014 Toyohiko Hamada All rights reserved.