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研究2−1 4群の談話の量的特徴
研究2−2 4群の談話の質的特徴


 
科学研究費補助金(16H03809)報告
研究2−1

ASD様の困難を合併する聴覚障害児の
談話の量的特徴

岩田能理子(都立大塚ろう学校)
 M田豊彦(東京学芸大学)

自閉スペクトラム症/自閉症スペクトラム障害(以下、ASD)のある児童・生徒のトラブルの原因として彼らの語用論的な課題が指摘されている(古池2009)。ASD児のいわゆる語用論的課題としては,例えば、会話の流れや文脈を理解・維持できない(大井,2006),唐突に話しはじめる,自分の言いたいことだけを一方的に話してしまう,冗談や皮肉などを字義通り受け取るなどの特徴が挙げられている(Happ? F.G.E.1993)。 しかし、我々はASD児の困難は、原因を分析すると語の意味の取り違いや言葉足らず、相手に理解してもらえるように説明するスキル等の談話能力不足といった必ずしも語用論的課題に限定されないより広範な言語力に関わる課題が関与していることを日々経験する。

一方、聴覚障害児は、聞こえにくさに伴い、言語獲得に遅れがあることが兼ねてから指摘されている(福島2012)。そのため、言語を用いて行われる談話においても何らかの課題があることが考えられており、遊びの中における協同的な談話の産出に遅れがあること(大原2015)や、他者や心的状態への言及の出現とエピソード間・出来事間の時系列化にやや遅れがみられること(長崎2000)などが指摘されている。

ASDを合併する聴覚障害児の談話には、ASDに起因する言語的特徴に加えて聴覚障害児伴う言語獲得の遅れを重複することが予想されるが、詳細に検討された研究はまだ少ない。

   
研究2-1報告書(PDF 531KB)


 
科学研究費補助金(16H03809)報告
研究2−2

ASD様の困難を合併する聴覚障害児の
談話の質的特徴

岩田能理子(都立大塚ろう学校)
 M田豊彦(東京学芸大学)

私たちは、他者とコミュニケーションを行いながら生活を営んでいる。コミュニケーションに関する研究として、現在ナラティブというものが注目されている。ナラティブとは、「ある出来事について組織化し、意味付け、他者に伝える行為」のことを言い(李・田中,2011a)、話し手によって語られた内容と、語るという行為の両方が含まれるものである。ナラティブに関する研究のアプローチとして、保坂(2014)は、@言語的構造に着目した観点、A認知構造に着目した観点、Bテクストそのものを通した観点の3つがあると指摘している。障害によって、言語獲得の遅れが見られる聴覚障害児や、認知に特異性があるとされるASD児は、ナラティブにおいても定型発達児と比較して、何らかの違いがあることが考えられる。

自閉スペクトラム症/自閉症スペクトラム障害(Autistic Spectrum Disorder、以下、ASDとする。)は、社会性の障害・コミュニケーションの障害・想像力の障害からなると言われている(DSM-V: American Psychiatric Association,2013)。このことからコミュニケーションはASDの中核の障害であるといえ、ASD児のナラティブに関する研究は多く見られる。

例えば、「こっち・そっち・あっち」の指示語の使い方が不適切であったり、話者の顔の向きや視線などの非言語手がかりを用いたりすることが苦手であること (伊藤・田中,2006: 伊藤,2006)や発達初期における他者への伝達に関してASD児は物理的必要を満たすための要求は行うものの、他者の注意を引くための反応はほとんどみられないこと(佐竹・小林,1989)が指摘されている。また、李・田中(2011b)は視聴したアニメーションの内容を説明する課題をASD児対象に行ったところ、登場人物の心的・情動的状態に関する言及や意味付けが少なったり、一貫した視点で話を構成したりすることに課題があることが明らかにしている。さらに、仲野・長崎(2006)は、イラストの内容について語る課題と自己の経験について語る課題をASD児対象に行ったところ、イラストの内容について語る課題より自己の経験を語る課題の方が困難を示すこと、接続詞や文法などの使用が未発達であり、説明した内容が全体的に未熟であったことを指摘している。

これらのASDのナラティブに関する課題について、ASDの心の理論の欠如(Baron-Cohenら,1985等)が要因ではないかと指摘されている。ナラティブを語る際、聞き手が何を知っていて、何を知らないのか、どのような情報を提供すべきか判断する必要があり、聞き手に対する意識が必要となる(Colleら,2008)。具体的には、自分と他者の関係あるいは、人と人との関係をとらえたり、他者の状態について注目したりする必要がある(李・田中,2011b)。熊谷(2004)は、ナラティブとして語ることにより、1人称や2人称だけでなく、3人称の立場や意図を表現することが可能になり、ナラティブが心の理論の発達に必要であると主張している。これらをまとめ、仲野・長崎(2009)は、ナラティブは心の理論を必要とするものでもあり、ともに育むものでもあるという見解を示している。

   
研究2-2報告書(PDF 417KB)

 

 

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